読書感想文


凡宰伝
佐野眞一著
文藝春秋
2000年5月20日第1刷
定価1619円

 先般逝去した小渕恵三前首相の評伝。小渕氏への長時間にわたるインタビューと、氏を知る多くの関係者への取材をもとに、氏の系譜を祖父の代からたどり、どのような過程を経てその人格を形成してきたかを探る。「巨怪伝」などで見せたたんねんに証言を集める手法がここでも生きている。
 地方名士の息子として生まれ、福田赳夫、中曽根康弘らエリートたちの居並ぶ選挙区で代議士として生き残ってきたしたたかな生き方から、その人物像が浮かび上がってくる。
 本書を読むと、小渕氏が決して「凡人」ではなかったことが解ってくる。少しの機会をとらえて、地べたをはいずり回るようにして人脈を築き上げ、ここぞというところでそれを生かしていく手腕は歴代首相の中でも出色の異能、異才である。
 本書執筆後、校正段階で小渕首相が入院したため、氏の求めていたものが何なのかがつきとめられないままに幕を閉じることになった。死後すぐに出版されたためにキワモノであるかの印象を受ける本書であるが、実際は長いスパンで企画取材されたものである。
 日本の政治風土が生みだした「凡宰」の正体を粘り強く探り出そうとした骨太のノンフィクション。実に興味深い一冊である。

(2000年5月24日読了)


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