作曲家、指揮者、そしてタレントとして活躍する著者の半生と音楽観を綴ったもの。かねてより私は著者の音楽性の豊かさを高く評価していて、それは現在では国際的な指揮者として活躍する小沢征爾を上回るものではないかとさえ考えている。だから、そんな著者の音楽性がどのようにはぐくまれてきたのか、おおいに期待を持って読んだ。
音楽一家に生まれて当然のように音大に進学し、渡邊暁雄ら名だたる指揮者に師事しながら、草創期のテレビの世界に足を踏み入れアルバイトのような感覚でテレビドラマやバラエティの音楽を手がけ、NHKの番組で用意された紅いタキシードに袖を通し、そのタキシードで出演したチョコレートのCMが当たって全国的な人気者になり……。
これ一冊で著者の半生はあらましわかるし、その幼少時に豊かな音楽性が形成されたこともわかった。しかし、そういったエピソードの積み重ねがなぜか本書では平板に感じられる。著者の親友である岩城宏之のエッセイだと何気ない一言に奥の深さをかいま見せたりするというのに。
著者は言葉で語る理性の人ではなく、音楽そのものに語らしめる感性の人なのに違いない。だから、これを機会に著者の作曲してきた音楽をなんらかの形でまとめたCDやテレビ番組「オーケストラがやってきた」のビデオなどを出した方が、よりよく著者の全体像を表現できるに違いない。どこかのレコード会社でそういう企画は立ててくれないだろうか。
(2000年6月6日読了)