読書感想文


虚無回廊I
小松左京著
ハルキ文庫
2000年5月18日第1刷
定価552円

 未完のSF大作がとうとう完結に向けて再スタートを切った。掲載誌の休刊などで中断を余儀なくされていただけに今度こそ完結させてほしい。
 宇宙空間に謎の物体が出現した。〈SS〉と名付けられたこの物体は直径1.2光年、長さが1光年という人類の想像を超えたもので、観測では人工物としか考えられない。地球政府はAE(人工実存)を搭載した宇宙船を派遣してその謎を探ろうとするが……。
 SFとは大風呂敷をいかにみごとに広げられるかという壮大な実験小説だ、と本書を読んであらためて思う。AEの開発にまつわるストーリーだけでも1本の長編SFだといっていいだろう。それが「序章」に過ぎないというだけで、本書のスケールの大きさがわかろうというものだ。
 自分の創造者が死んだ時点でAEは地球とのコンタクトを切断する。物語は、そこからこのAEを主人公として始まるのだ。本巻は〈SS〉の内部に到達したAE、エンドウがそこに出現した知的生命体とファースト・コンタクトをはかるところまでが展開されている。小松SFの到達点となるであろう本書の再刊と、再スタートを喜びたい。

(2000年6月14日読了)


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