第6回歴史群像大賞奨励賞受賞の新人のデビュー作。
陰陽生として修行中の安倍晴明と賀茂光栄の二人が、鬼に憑かれて死んだとされる受領について占をし、鬼の正体を探る物語。
安倍晴明ものが数多くでている中で新人が伍していくには独自の晴明像を描き出さなければならない。本書では、陰陽師としてはまだ半人前の晴明を人間味豊に描くことによって新たな陰陽師像を創出しようとしている。その試みは割とうまくいっていると思うが、鮮やかな印象を植え付けるところまではいっていないように感じた。
というのも、ここで扱われている事件のスケールが小さいこと、狂言まわしである賀茂光栄が物語の中心となっていること、そして師匠の賀茂保憲の存在の大きさをかなり強調していることなどで、どうしても晴明の役割が軽くなっているのだ。
晴明ものというとどうしても式神を派手に使ったものが多くなるので、そういう意味では本書はやや地味で損をしているというように思われる。
しかし、ユーモラスなタッチやキャラクターの描き分けなど、デビュー作ながらしっかりとした作品に仕上がっているので、この調子でじっくりと力を蓄えて書き続ければ、将来的には安定した力を発揮する作家になる可能性を秘めているというように思われる。期待していきたい。
(2000年6月25日読了)