読書感想文


殺竜事件
上遠野浩平著
講談社ノベルス
2000年6月5日第1刷
定価880円

 ファンタジー世界を舞台に書かれたミステリ小説である。
 戦争の調停をするために竜のいる地にやってきた三人の主人公が、そこで殺されている竜を見つけ、その殺害犯人を探して旅をする。旅行く先々の町で彼らは命の危険にさらされながらも事の真相に近づいていく。果たして不死身とされる竜を殺したものは誰なのか、そしてその目的は……。
 ファンタジー世界が舞台だけに竜を殺した犯人を探すという趣向はなかなかの着眼点であるとは思う。しかし、結果は残念ながらどちらの面白さも十分に生かし切れずに終わっているといわねばなるまい。世界設定に目新しいところがない点や、必要以上に説明過剰な文章が気にかかる。
 主人公の一人の一人称と、そして三人称の文章が一つの章の中でめまぐるしく入れ替わる。残念なことに、それは作者のデビュー当初のように計算された効果的なものでなく、一人称で描けない部分を三人称で補っているとしか読みとれない。
 物語のRPG的な展開も含めて、ヤングアダルトの枠から脱し切れていないように感じられた。キャラクター造形ももう少し踏み込んだものがほしい。主人公の一人を作中で変人だと協調しているが、少しも変人らしくないところなどに不満が残る。
 残念ながら、全てにおいてあと一歩という読後感が残った。もう少し時間をおいて錬りこんでいければかなり魅力的な題材なのだが。

(2000年6月27日読了)


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