読書感想文


僕はイーグル 1
夏見正隆著
トクマノベルズ
2000年6月30日第1刷
定価1300円

 高校を卒業してすぐにF15戦闘機のパイロットを志して航空自衛隊に入った青年、風谷修。証券会社の自主廃業にともなってリストラされ、再就職の面接でセクハラに遭い、傷心のままF15戦闘機に出会い、ついには航空自衛隊に入隊する漆沢美砂生。物語はこの二人を軸に進む。漆沢がピンチの時に、彼女を助けたのは風谷であり、防衛庁のキャリア官僚である夏威であり、F15戦闘機のベテランパイロットである月刀である。風谷にひかれる漆沢は、彼を追うようにして小松基地に着任する。そこに国籍不明の旧ソ連機スホーイが領空侵犯してきて、風谷はスクランブル発進をする。風谷に指令を出す本部では、自衛隊法と、次の選挙への反響を気にする政治家や官僚たちに阻まれて、スホーイに威嚇射撃することすらさせない。それがついに大惨事を引き起こすことになり……。
 「わたしのファルコン」の姉妹編ともいうべき内容であるが、「わたしのファルコン」が正体不明の怪獣を相手にするのと違い、本書で主人公たちが戦うのは「現実」という怪物である。彼らに突きつけられる「現実」はかなりカリカチュアライズされたもので、その描写は極端ではある。しかし、極端であるがために真実を突いているともいえる。
 登場人物の背景にあるものを綿密に描き、空に青春を賭ける若者たちの姿を生き生きと描いている。多数登場する人物たちが網の目のように微妙な人間関係を形作っており、それが主人公たちに収斂されていくところなど、作者の真骨頂といえる。
 謎の領空侵犯機の正体など、次巻以降にどのような展開が用意されているのか。期待とともに続刊を待ちたい。

(2000年6月29日読了)


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