読書感想文


異能の画家 小松崎茂
根本圭助著
光人社NF文庫
2000年7月13日第1刷
定価752円

 戦前に挿絵画家としてデビューして以来、戦後の絵物語ブームをにない、少年誌の口絵、模型の箱絵などで根強い人気を保ち続けてきた異能の画家、小松崎茂。本書はその愛弟子が、彼の生い立ちから現在までの歩みを描いた評伝である。
 日本画家を志しながら、食べていくために挿絵に転向していった経緯、売れっ子時代のユニークなエピソード、本田宗一郎や円谷英二などといった人たちとの交遊などが小松崎茂を間近で見てきた著者ならではのあたたかい視点で綴られている。
 また、それと並行して、戦前戦後の挿絵画家について、絵物語作者についての小史が書かれていることも興味深い。それだけ小松崎茂という画家の活躍の幅が広かったことを示している。見逃せないのは、口絵の他にも豊富な図版が本書を飾っていることだ。小松崎の先輩、ライバル、後輩たちの絵が掲載されていることにより、よりイメージをつかみやすくなっている。
 なぜ小松崎茂があれだけユニークな空想世界を描くことができたか、という点に関しては、その発想の源などを示す手がかりすら書かれていない。それだけが残念ではある。偉大な人物の全体像はそうかんたんには描ききれないということなのかもしれない。

(2000年6月30日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る