第1回新潮ファンタジーノベル大賞の最終選考に残り、かつて新潮文庫で刊行されていたものの、10年ぶりの復刊。時代に合わせていくぶん加筆訂正されている。
宇宙飛行士を目指す高校生、氷室友美は夏休み最後の夜に、空から光る物体が降ってくるのを目撃した。その物体は人々の額に吸着し、感覚を増幅させる力を持っていた。〈星虫〉と名付けられたこの生物は次第に成長していく。星虫は人間に友好的な生物なのか、有害な寄生虫なのか。多くの人が星虫をはずしていく中で、友美と、そして「寝太郎」のあだ名のある天才少年相沢広樹の二人だけが星虫を信じ続ける。やがて頭をすっぽりと星虫に覆われた二人は、不思議な体験をする。星虫の正体は……。
甘酸っぱい味の青春小説。そのファンタスティックな設定も優れている。先が読めない展開は、この〈星虫〉のアイデアの勝利だろう。今風にいえば癒し系とでもいうべきか。星虫をめぐり世界的な騒動が起きるのだが、それを大所高所から描くことは決してしないで、常に友美たちの視点を固定していることで、より一層〈星虫〉の秘密を生かし、物語の流れを自然なものにしている。
しかしこの甘酸っぱさは、おっさんである私にしたら高校時代の初恋を思い出させたりしてなんか切なくも照れくさくなってしまう。でも、この甘さが本作の場合、長所になっているのである。
(2000年7月7日読了)