読書感想文


ウォーターソング
竹岡葉月著
集英社コバルト文庫
2000年7月10日第1刷
定価476円

 1999年度コバルトノベル大賞佳作受賞作「僕らに降る雨」とその主人公の生い立ちを描いた表題作の2編を収録。
 「僕らに降る雨」は酸性雨の降る植民惑星を舞台に、そこで暮らす子どもたちの前に現れた転校生の少女、オヅ・アサヒが彼らの秩序を崩していき、その中で彼らがちょっぴり成長していく姿を描く。甘酸っぱい初恋の味がうまく表現されている。
 「ウォーターソング」は、ジャンク屋たちの町に住む歌手カガヤ・セイとその娘アサヒの前にふらりと現れたフリーカメラマン、オヅ・ヒムロの不思議な関係を描く。ヒムロはジャンク屋たちが武器の密売をしているところを写真に撮り、当局に渡す仕事をしていたが、セイのペースに巻き込まれ、ついには結婚することになる。ところが、気の強いアサヒはそんな二人を許せない。やがてヒムロが送った写真をもとに治安警察がジャンク屋たちを制圧しに現れ、セイとアサヒは戦火に取り残され……。
 受賞作は良質のジュヴナイルという印象を与えるが、表題作は少し苦い大人の味がする。新人ながら描き方を心得ているように感じた。テーマも現代の若者たちがかかえる閉塞感をSFとしての設定でうまく浮き彫りにしていて読ませる。本格SFに進むのか、SF設定を使った恋愛小説の書き手として進んでいくのか、今後の方向性が気になる新人の登場だ。大きな可能性を秘めた新人だけに、SFを本格的に書き続けていってほしいものである。

(2000年7月13日読了)


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