読書感想文


アース・リバース
三雲岳斗著
角川スニーカー文庫
2000年7月1日第1刷
定価533円

 第5回スニーカー大賞特別賞受賞。
 舞台は灼熱の溶岩に地表を覆われた世界。人々は空中に浮かぶ都市〈リダウト〉に住んでいる。各〈リダウト〉はそれぞれが対立していて、デミ・エンジェルという人型の航空兵器を操って常に戦闘を繰り広げている。デミ・エンジェルの乗組員、シグは他の〈リダウト〉からやってきたデミ・エンジェルに搭乗していた少女、ティアを助け出す。しかし、他の〈リダウト〉の住民をかくまったことにより、彼は都市を追われる身となる。シグとティアは伝説の〈世界の果て〉を目指してデミ・エンジェルを駆る。彼を追うのは実の姉、レネと彼と婚約するはずであった少女、イザベル。彼らがたどり着いた〈世界の果て〉で明らかになった事実とは。そしてその秘密を知った二人を抹殺しようとする〈リダウト〉の支配者イブリースの真の意図は……。
 世界設定がすぐれたSFである。その世界設定を中心にした本格SFにすることも可能であっただろうが、作者はこれを愛し合う二人の若者を主人公にすえ、軽快なスピードのアクション小説に仕立て上げた。ヤングアダルト小説の読者層を十分に意識した余裕のある構成である。それだけ作者がデビュー以降大きく成長したのだと感じさせる。ただ、そこに作者の計算が透けて見えるようでもある。
 設定が面白いだけに、できれば同じ舞台設定で本格SFに仕立て上げたものを読んでみたい。現在の作者の力量ならばそれができるはずだと思う。そういう意味ではもったいないように感じた。

(2000年7月14日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る