第6回電撃ゲーム小説大賞の最終選考に残った作品に加筆したもので、デビュー作である。
キノという少年と、人と会話のできる自動二輪車エルメスが旅を続ける中で、様々な町にたどりつき、いろいろな人々に出会う。その様子を淡々と描いていた連作長編。テレパシーが発達しすぎて人間関係が崩壊してしまった町、なんでも多数決で決めることにしたために崩壊してしまった町、そこに住む権利を得るために殺し合いをしなければならない町、戦争をするかわりに何の関係もない部族の人々を殺した数を競い合う町……。
これは現代的な寓話である。そこに描かれる町は戯画化されていて、強い風刺性ももっている。サン・テグジュペリの「星の王子さま」で王子がたどり着く様々な星を思い出させる。その着想の面白さで読ませる作品である。そして、人というものの愚かさ、醜さ、悲しさを戯画化することによって物語の枠組みに組み込み、淡々としたタッチで詩情さえただよわせている。そのために、説教臭くなりがちな展開であっても、押しつけがましい印象を与えない。
そういう意味では、この作者は最近の新人の中ではかなり個性的なタイプの作家だといえるだろう。それだけに、このようなタイプの作品を続けて書いていってほしいところであるし、次作以降に多いに注目したい作家のデビューだと思う。
(2000年7月14日読了)