妖異、怪異を扱った時代小説を10編収録したアンソロジー。大正時代から昭和30年代に発表されたものが中心に編まれている。
タイトルには「伝奇」とあるが、妖怪変化の類が出たりするものは本書に限ってはあまりない。怪しい現象を扱った作品の謎解きも目を見張るわけではなく、生理的嫌悪感や心理的恐怖を呼び起こすというわけでもない。この時期の時代小説に特にくわしいわけではないが、「怪奇」の定義や感覚が現在とはかなり違うように思われる。全体に女の恨みは恐いよ、というような感じのものが多いのが時代を感じさせる。
本書では「幻法ダビデの星」(多岐流太郎)が島原の乱を題材にとって山田風太郎ばりの展開を見せ、楽しめた。
(2000年7月23日読了)