3年ごとに学園祭で「サヨコ」が現れて演劇を行うという不思議な伝説のある高校が舞台。その年に「サヨコ」を演じる予定になっていた『彼女』の前にもう一人の「サヨコ」が現れた。転校生、津村沙世子である。謎めいた美少女をめぐり、受験を控えた3年生たちの生活にも変化が現れ……。そして学園祭当日行われた劇は……。
「サヨコ」の伝説というミステリアスな設定が本書の成否を握る鍵で、これはみごとに成功している。津村沙世子の神秘的な顔とごく普通の女の子としての顔が見え隠れしている、その微妙なラインがうまい。
難点といえば、ストーリーを動かすためだけに登場し、事件が起きたあと姿を消してしまう登場人物の扱いか。全体を有機的に動かすのであれば、そういう人物がラストまで自然に動かなければならないだろう。
とはいえ、大学受験を目前にした微妙な時期の若者たちの心情を、ごく自然に描いていて中年のおっさんとしては胸が詰まるような甘酸っぱい気分を味わえた。学園ミステリの秀作として今後も読み継がれていく作品だろう。
さて、私はテレビドラマ化された方を先に見たのだが、あえて比較はしない。同じ設定を使って、違う作家が描いたらどうなるかという感じで考えるべきだろう。原作も、そしてドラマも、それぞれが優れた作品になっているのだから。
(2000年7月31日読了)