地球の衛星軌道上に浮かぶ〈アフロディーテ〉。そこは全世界のあらゆる芸術や動植物を所蔵する〈博物館惑星〉なのだ。学芸員たちはメインコンピュータに頭脳を直接接続させ、芸術の鑑定を行い、データベースに保存している。主人公の田代は各部門の調停を行う総合管轄部署〈アポロン〉に所属し、惑星に持ち込まれる芸術品に関わるトラブル処理に追われている。その結果、彼は〈美〉の本質を見失い、苦慮する。
〈美〉を文章化するという大事業に作者は果敢に取り組み、それを見事なまでに成功させている。それは作者自身が〈美〉に耽るのではなく、〈美〉を客観的にとらえ、かつ主観的に表現するという離れ業を演じているということなのだ。
本書は〈博物館惑星〉で起こる出来事を描いた9編の短編からなり、そのエピソードが少しずつからまりあって、主人公の〈美〉に対する意識を変えていくという構成をとっている。この構成の妙も見事である。〈美〉とは、〈芸術〉とは、そしてそれを収蔵する意義とはなにか。人はいったいどのようなものに感動するのか。その答えは読み手によって意見の分かれるところだろうが、作者はその答えの一つを小説という形式で示している。そして、本書自体がまたひとつの〈美〉なのである。
今年一番のお薦め。傑作です。
(2000年8月8日読了)