戦前、船場の商家に嫁入りした歌子サンは、戦後女手一つで店を建て直し、引退したあとは76歳で3人の息子たちとも別居し、優雅なマンション住まい。英会話教室に通い、書道教室の先生をし、趣味の友だちと遊び、好奇心のまま好きに暮らす毎日。しかし息子の嫁たちをはじめ周辺は何かというと年寄り扱い。それでも歌子サンは我が道を行く。歌子サンの日常を綴った短編9編からなる。
歌子サンは作者の理想像なのだろう。そんな歌子サンに託して作者は言いたいことを言わせ、やりたいことをやらせている。その言動に矛盾があっても、そんなことはおかまいなしで、なぜならそれは歌子サンがその時々に感じたことだからなのだ。
こんな恵まれた条件のお年寄りがいるかと思いながら読んでいたが、「日本芸能再発見の会」に来ている年輩女性には歌子サンみたいな方がいらっしゃったりするからね。あながち作り事とは思えなかったりする。
読みやすく、さらっと流してしまうところにけっこう鋭い指摘があったりして、なかなか一筋縄ではいかないのである。
歌子サンと周辺の人々の会話が軽妙洒脱で面白い。「水子教」なる宗教の信者にくどくどと教義を説明されたときに「みずこの魂百まで」と切り返すなど会話のセンスは抜群。
(2000年8月14日読了)