読書感想文


大坂侍
司馬遼太郎著
講談社文庫
1985年11月15日第1刷
1997年7月15日第24刷
定価447円

 幕末の大坂を舞台にした作者の初期短編集。勤王左幕関係なく利欲のみで動く大坂商人に嫌気がさした旗本、鳥居又七が彰義隊に参加するが官軍の前に一敗地にまみれほうほうの体で大坂に戻るはめになる表題作、口入れ屋の未亡人が勤王の志士と新選組の隊員を手玉にとる「法駕籠のご寮人さん」など、5編を収録。
 大坂の町人たちの実に現実的な生き方を、幕末という大義名分と体面が幅をきかせていた時代を舞台にすることによって、さらに強調して描いている。武士の体面を笑い飛ばし、利欲ばかりでなく情の深い大坂の人々の姿が活写されている。
 初期の短編だけに、後の作品のようなちょっと高みに立ったようなタッチではないが、合理的なものの見方が随所に現れ、作者らしさを感じた。
 「大坂侍」の一節、「武士だ武士だと言っても、結局は大坂のあきんどたちの掌の中で走りまわってきたような気だ」が本書全体を表している、そういう印象が残った。

(2000年8月11日読了)


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