明治の末に昆布屋の丁稚となった吾平は、商いに精進しついに暖簾分けをしてもらい自分の店を持つ。自ら北海道まで昆布を買い付けに行き、工場を建てるなどして店を発展させた吾平だが、大阪大空襲で全てを失ってしまう。復員してきた次男孝平は、他の商人が闇商売で利ざやを稼ぐのに対して、真っ正直に商いを進め、不眠不休で働いた結果、戦火に焼けた本店の再興を成し遂げ、父が空襲の中でも守り通してきた暖簾を再び店に掛けるのである。
現在は社会派の巨匠である作者のデビュー作。いわゆる浪花のど根性もので、どんな困難に対しても徹頭徹尾誠実さを貫いて成功を収める親子たちの姿は、いくらなんでも出来過ぎのように思う。それはなんとも野暮な感じで、商売というものはもう少し粋に描いてほしいのだ。地方出身者が都会でコツコツと頑張る姿が、高度経済成長期の風潮にはちょうどあっていたのかもしれない。道徳の教科書という趣がある。それだけにバブル崩壊後の現在ではかなりずれを感じるのである。
ただ、大阪の商人が「暖簾」を大切にするのは間違いないことで、「暖簾」に対する船場の商家のこだわりというものはよく理解できる。また、昆布の加工や流通についてはよく取材がなされているのか実にくわしく、そしてわかりやすい。後に社会派として評判をとる作者の特徴がデビュー作にも現れているというところだろう。
(2000年8月13日読了)