第4回織田作之助賞受賞作の「浪速怒り壽司」を含む3編よりなる短編集。
表題作は、職人気質で客と喧嘩も辞さない寿司職人の師弟をわざわざ雇う店が現れる。客と喧嘩をする寿司屋というのを売りに評判にする目論見で、それがまんまと当たり、ついにはテレビ局が取材に来た。ぶしつけなレポーターに怒った職人はレポーターとまで喧嘩をしてしまうが……。「ミナミ氷雨川」は、老舗のうどん屋を息子に譲り渡したとたん、チェーン店界をしはじめる。老舗の味を大切にしたいが店のことに口出しができない父親は、彼の気持ちをわかってくれる若い女性と出会い、ついには彼女に小さなスナックまで持たせるが……。「地虫の踊り」は、バブル絶頂期に不動産の転売で一山当てようとする男と、そこに出資する女のだましあいを描く。
いずれも、自分の知らないところで何者かに踊らされてしまっている人々の哀感を描いたもの。どちらかというと素直なストーリー展開で、題材を考えるともう二転三転してもいいのではないかと思う。
その中で、表題作は寿司職人の心意気が読んでいて気持ちよく、踊らされながらも意地を見せる展開に好感が持てた。
この作者については、本書の出たあとスポーツ紙で連載小説を書いているのを見かけたことがあるが、最近その名に触れることがない。着眼点の面白い小説を書く人だけに、再び活躍してほしいものである。
(2000年8月17日読了)