田舎の蔵から骨董品の掘り出し物を買い取る〈初出し〉屋が、福井の旧家の秘蔵の茶釜をだまし取った。主人は画商の末永と美術誌の佐保に、〈初出し〉屋をだまし返すよう依頼する。佐保は巨匠漫画家の原画を餌に〈初出し〉屋をおびき寄せる。骨董をめぐる駆け引きを描いた表題作をはじめ、古美術商たちの贋作をめぐる虚々実々をテーマにした5編からなる連作短編集。
古美術の世界は、バブル崩壊後もなかなか大きな金の動くところらしい。だましだまされのあらゆる手口が欲に目のくらんだ人々の生態とともに鮮やかに描き出されている。その多彩な手口は部外者にとっては実に面白い。
各話、いずれも切れ味のよい良質の短編である。ただ、全編の登場人物をある程度共通させて統一感を持たせている割には、全体をまとめて読んだときに総合的に浮き上がってくる芯のようなものがなく、連作として読んだ場合は若干弱い。そこらあたりが少々食い足りなく、残念に思う。
(2000年8月16日読了)