読書感想文


花のれん
山崎豊子著
新潮文庫
1961年8月15日第1刷
2000年1月10日第43刷
定価438円

 寄席道楽で呉服店をつぶした夫。妻の多加は夫の好きなものを稼業にしたら身を入れて働いてくれると思い、場末の寄席を買いとり、席亭となる。多加の工夫などで寄席経営は順調にいくが、今度は女道楽に手を出した夫に妾宅で死なれてしまう。彼女は番頭のガマ口らとともに大師匠たちを寄席に引き抜き、安来節のスカウトのために自ら島根に足を運ぶなど、ど根性で寄席を発展させていく。
 吉本興業の女興行師、吉本せいをモデルにした直木賞受賞作。ただし、現実のせいと多加とは性格や行動などはかなり違うようなので、この主人公は作者の作り出した理想の大阪商人の一人といえそうだ。
 主人公の多加は新機軸を自分一人で打ち出し、行った努力は次々と報われていく。その分、成功のカタルシスは少ない。実際の吉本興業の場合、吉本せいの実弟、林正之助がやったことも、ここでは全て多加が行ったことになっている。
 だから、本書についてはモデルはいるが実録ではなく、興行界の暗部などもあまり描かれていないため、演芸ファンの目から見ると物足りなさを感じてしまう。ただ、本書が書かれた戦後復興期という時代の空気を考えると、女手ひとつで苦労して商売を成功させるというサクセスストーリーに大きな意味があったのかもしれない。

(2000年8月17日読了)


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