読書感想文


病の世紀
牧野修著
徳間書店
2000年8月31日第1刷
定価1600円

 続発する猟奇的な殺人。その犯人たちはいずれも特殊な病気に感染していた。国立予防医学研究所の所長、小淵沢はこれらの奇病が続発する背後に何者かの意志を感じ取っていた。研究所員である小森が感染し、入院中の病院から失踪する。研究所の上部組織である米国〈IRNI〉から派遣されてきた差別主義者のロバートソン博士は、小淵沢の行動を妨害する。事件の背景に〈IRNI〉が関係すると考えた小淵沢は、真相を究明しようとするが……。
 人間が自然に介入することへのアンチテーゼ、と読むことも可能であるし、人間の意志に反して絶望を運び込む「病」への原初的な恐怖を描いたものと読むことも可能である。私は本書から作者独自のヒューマニズムを感じたが、それは単純な正義感とは異なる次元にあるものだろう。人間への絶望の果てに生まれるヒューマニズムというべきか。
 パッチワークのように病気による犯罪が描き出されたあと、それを一つにまとめるように物語は急展開し、スリリングなクライマックスにもっていく、そのスピード感。作者には珍しく読後感がいくぶんすっきりしている。ホラー小説にあまり縁のない読者であっても、本書は心地よく読めるのではないだろうか。私の好みからいくともっと読者を救いのないところまで突き落としてほしいのだけれど。
 個人的な好みは別にして、本書もやはりお薦めの一冊であることに間違いない。

(2000年8月29日読了)


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