両親を亡くした大学生の邦彦は、道頓堀にある喫茶店で住み込みのアルバイトをしている。マスターの武内はかつて玉突きで生計を立てていたが、現在ではその世界からすっぱりと足を洗っている。その息子の政彦もまた、玉突きをはじめ、勝負師としてその名をあげてきていた。彼らをめぐる人間模様を描きながら、武内と政彦の玉突きでの大勝負が始まる。
都会の影に生きる人々の孤独感を描く。なにか欠落していながらも必死に生きる人々の孤独である。通り過ぎるように次々と登場する人々の哀感がなにげなく、しかし深く隈取られている。
主人公の邦彦は無感動な人物として書かれており、親代わりとなる武内は自分の過去を清算しきれず苦しむ人物で、政彦はどこか捨て鉢な風情がある。三者を対照的に描き対比させることにより、微妙な光の当て方でそれぞれの生き方の違いを浮かび上がらせている。
読後、静かな余韻が心に残る佳品である。
(2000年8月18日読了)