読書感想文


騒動師たち
野坂昭如著
角川文庫
1971年2月20日第1刷
1972年4月10日第5刷
定価180円

 頃は70年安保闘争華やかなりし頃、釜ヶ崎のアンコたちケバラ、バロク、イカクンらは終戦直後のドサクサの夢追い求め、競輪場の暴動を扇動し渡米してアメリカのヒッピーを暴れさせ果ては東大安田講堂に立てこもり機動隊と一戦交える騒動師ぶり。世の中をあっといわせる釜のアンコの心意気。たちまち東大崩壊し、強者どもの夢のあと。
 反権力に時事風刺、野坂昭如の面目躍如の一冊。ただし1960年代終わりの事件風俗周知しなくば本書の面白さやや半減するか。作者の反抗は権力だけにあらず、安穏たる地位に甘えて反権力ごっこをする学生やら好き勝手してそこにお題目を後付けするヒッピーやら全ての方向に向く。その文章の諧謔味、文体のリズム、こうやって文体模写してみても足元にも及ばぬ。主人公を地べた這いずりまわる日雇い労働者に据えていることからもそのポリシーは明らか。
 本書が書かれて30年、いまだ作者の反骨精神衰えず。本書も時事風俗わからぬ者にもその面白さは伝わるに違いない。本書がとうに絶版であることこの上なく惜しい。というよりも、作者の小説ことごとく絶版。いまこそその諧謔を再評価すべしと愚考する次第である。

(2000年8月19日読了)


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