読書感想文


家康入神伝 江戸魔道幻譚
橋本純著
ハルキホラー文庫
2000年8月28日第1刷
定価762円

 徳川家康が関東に転封になったのは、豊臣秀吉が彼を遠隔地に引き離すためではなかった。実は彼につきそう茶坊主、東甫が龍脈を持つ町である江戸を新たな都として発展させるために仕組んだことだったのだ。東甫は密教の幻術を駆使し、天台密教の使い手である南光坊天海とともに江戸の龍を抑える町づくりを進める。さらに、緻密な計画の元に術をもって諸大名を動かし、家康に天下を取らせるようし向けていく。対する石田三成は、京都の陰陽師、半井泰道に命じて陰陽道で対抗する。密教が勝つか陰陽道が勝つか、そして関東に眠る龍は目覚めるのか。現在に続く遠大な計画が始まる。
 江戸の風水をはじめとして、多様なアイデアをドンドンと繰り出し、都市計画を主人公とした異色の戦国物語に仕上げている。その点はなかなかユニークで、面白い。ただ、時代伝奇小説の体裁をとりながら、文体や展開が架空戦記のものになってしまっている。長らく多数の架空戦記を書き続けてきた作者だけに、そこはしかたないのだろうが、テーマやモチーフを考えると違和感が残ってしまった。
 また、東甫という人物の術が万能過ぎてあまりにも家康側に都合のよすぎる展開になってしまっているのも気になるところ。アイデアは面白いだけに、あまり生のまま出さずに小出しにするなどの工夫があればと悔やまれてならない。

(2000年9月15日読了)


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