読書感想文


とむらい師たち
野坂昭如著
講談社文庫
1973年3月15日第1刷
定価180円

 デスマスク作りを生業とするガンメンを主人公に、「人の死」を商売にする人々が登場する表題作はじめ、短編5編を収録。
 「とむらい師たち」の初出は1966年。ここで作者は水子地蔵や葬儀会館をビジネス化し、いわば「死」を茶化すように描いている。それが35年ほどたった現在、全て現実のものになっているところに作者の視点の鋭さと現実のうそ寒さを感じた。主人公のガンメンの父は墓掘り人。それ故に身についた死生観は、死者の尊厳を冒してはならないというもの。しかし図らずも「人の死」をビジネスとして成立させてしまうガンメンは手痛いしっぺ返しを食らってしまう。現在の社会もガンメンのようにしっぺ返しを食らう日はそう遠くないかもしれない。
 本短編集のほとんどが死と隣り合って生きている者たちを主人公にしたものなのだが、1960年代、昭和元禄と呼ばれた時代にシニカルに社会を見据える作者の慧眼を感じさせる。
 時事ネタを扱った短編を収録しているせいか、現在は絶版。しかし、世紀末の刹那的な今こそ、読み返してみれば考えさせられるところの多い作品集だろう。この時期の野坂昭如の業績は再評価されるべきではなかろうか。

(2000年8月24日読了)


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