読書感想文


KI.DO.U
杉本蓮著
徳間デュアル文庫
2000年9月21日第1刷
定価762円

 第1回日本SF新人賞佳作受賞作。
 深優姫は2年前に死んだはずの父親、向原周人からのメールを受け取り、故国に帰ってその遺産であるヒューマン型コンピュータ〈モバイル〉のアマネを引き取る。人間に奉仕する機能を植え付けられているはずの〈モバイル〉だが、アマネは人間を平気で殺害し、深優姫に対しても反抗的な行動ばかりとる。二人の共通の目的は亡くなったはずの周人を探しだし、なぜ今深優姫にアマネを受け取らせたのか、その意図を聞き出すこと。ところが、周人の行方を探していくうちに、二人は父が自分の居場所を教える鍵をあちこちに残していることに気がつく。さらに、深優姫とアマネを狙い大企業が組織する団体の私設兵たちが行く手を阻む。周人に関わる大きな陰謀がそこには隠されていた。その真相に二人がいきついた時……。
 本書のテーマはやはり、生命というものを人間がどうこうしてよいものかという問いかけなのだろう。しかし、作者はそれを大上段に構えて説くのではなく、クローン技術から生み出されたアマネと人間である深優姫の愛情を通じて読者に共感を与える形でそれを提示している。
 解説では禁断の愛という読み方も提示しているが、私はこの舞台が現在の読者の趣味や世間一般の常識から解き放たれた世界であるがゆえに、もっと普遍的な愛の物語としてとらえたい。
 同じ世界を舞台にした別の物語を書き継ぎ、作者独自の「未来史」シリーズとして展開してほしい気もするし、新たな世界を構築して次の段階に進んでほしいという気もする。両方並行してくれればその方が嬉しいのだが。
 どちらにせよ、本書は、その出発点である。ミステリ、ゲーム、サスペンス、ロマンスなど様々な要素が盛り込まれているので、SFアレルギーのある読者にも楽しめるのではないだろうか。SFプロパーではなく幅広い読者層を獲得できる可能性を秘めた新人の登場である。

(2000年9月17日読了)


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