読書感想文


篁破幻草子
あだし野に眠るもの
結城光流著
角川ティーンズルビー文庫
2000年9月1日第1刷
定価438円

 平安時代のはじめ、京の都の夜を惑わす妖怪が現れた。若い貴族たちが妖艶な美女に襲われ、死の床につく怪事件が続いたのである。橘融もまたその妖怪に襲われた一人。しかし彼はすんでの所で謎の人物に救われる。その人物は彼の友人、小野篁にそっくりだった。融は彼を助けたことを否定する篁を怪しみ、尾行する。篁が消えていった先は、冥府。篁は閻羅王に仕え、宝刀「狭霧丸」と磨弓「破軍」を使って地上を惑わすものを滅ぼす役目を担っていたのだった。篁と融は都を騒がす妖怪の正体を探る。その正体は……。篁たちは妖怪を退治することができるのか……。
 新人のデビュー作。安倍晴明の次は小野篁をブームのターゲットにおいた角川書店が、「TAKAMURA Project」と称してコミック誌でのマンガ連載などと同時並行で進める企画ものである。
 小野篁自体、それほど派手なエピソードに飾られた人物ではないので、作者もかなり苦労してエピソードやキャラクターを作り出しているという印象を受けた。あとがきによるとこの企画が始まるまで作者は小野篁の名前も知らなかったとのこと。正直なところ、新人作家が付け焼き刃の知識でシリーズを立ち上げるのはかなりの冒険であるように思う。作品自体はそれなりに読ませるものにはなっているが、飛び抜けて面白いというわけでもない。
 果たして「小野篁」ブームを起こすことができるのか。本格的なムーブメントにするならば、小野篁に思い入れのある書き手を起用すべきではないかと思う。

(2000年9月22日読了)


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