江戸時代初期、島原の乱を治めるために原城へおもむいた柳生十兵衛が、そこで出会った老人から聞かされた物語は、想像を絶する戦国時代の裏面史であった。
欧州から日本へ渡ってきた吸血鬼と、彼を追って派遣されてきた〈聖堂騎士〉たち。騎士の一人、ステファンは、織田信長が自分たちと同じように吸血鬼に対する力をもったものと見抜き、彼のもとに身を寄せる。一方、吸血鬼は浅井長政を操り信長に反抗させるなど、次々と手を打ってくる。果たしてステファンたちは吸血鬼を追いつめることができるのだろうか。そして、信長はこの戦いでどのような役割を担っているのか。
吸血鬼が鉄砲伝来など戦国史に大きな影響を与えているというアイデアが面白い。視点をほぼ一貫して〈聖堂騎士〉のものにしているので、作者の仕掛けた罠や伏線をうまく隠すことができるように思う。このため読者は全貌が明らかになるまでどこに連れられていくのかわからない。こんなことは小説としては当たり前のようだが、書き手はついがまんできずに全てを書いてしまいたくなるものなのだ。
歴史上の事件や人物の動きが、全て吸血鬼と騎士の戦いを軸に動かされていく。その裏付けもよく考えられている。アイデアと、それを生かす構成が本書にはある。
完結の暁には戦国史を塗り替えるユニークな物語が完成することだろう。そこまで読者を引っぱっていってほしい。次巻以降の展開に期待している。
(2000年9月23日読了)