遠野忍が心臓移植の手術で得た新たな心臓は災厄を呼ぶ心臓であった。これまでに4人の人間が「騎士」として彼を守り、死んでいった。彼の前に現れた読書好きの内気な少女、沢村智美は、しかし拒絶する彼の意志とは逆に、彼の新たな「騎士」となる。彼女は自分のホームページでファンタジー小説を発表していて、その登場人物の人形を作るほど心をこめていたが、心ない人物のために「さらし者のページ」に紹介され、悪意のあるメールを多数受け取り、傷ついてホームページを閉鎖し、人形を捨ててしまう。その人形には「騎士」の力がこめられており、それを持つ者は彼女の作ったキャラクターと同じ力をもつようになる。忍をめぐり、智美の作った悪魔が現実に現れたとき、智美は騎士として戦い始める。
内気な少女が自分のサイトで紹介した小説をさらしものにされて攻撃されたりするくだりは現実にもそのような例を知っているだけにリアリティを感じた。
本書では少女の想像の世界が具現化してしまう。作中作の世界が投影されるといういれこ構造になっているのだ。そういう意味では本書はメタフィクションに近い手触りを感じる。
ただ、第1巻である本書を読む限りでは、その構造がやや空回りしているようにも感じられた。これは本来ならもっと重点を置いて描いてほしい忍という少年の役割にあまり重みが感じられないからで、それならば「災厄の心臓」については現時点では極力隠しておいて巻を追うごとにその正体が明らかになるようにした方が、虚構が現実の者になる面白さを生かせたのではないか。本巻でもまだ「災厄の心臓」については十分に明らかになっているわけではないので、いっそのことそのようにした方が読み手の興味をそそると思う。
次巻以降、智美の成長なども含めてどのような展開になるのか注目していきたい。
(2000年9月23日読了)