建設族の代議士とゼネコンの社長が料亭である公立高校を廃校にする事業について談合をしていると、そこに不思議な雰囲気を持つ高校生が入ってきた。彼を排除しようとする秘書たちは、次々と彼の言葉にしたがってしまう。彼は「わが名はオズヌ」と名乗る。彼、賀茂晶は廃校になるはずの高校に在学しているが、いじめによる自殺未遂のあと、まるで人間が変わったようになり、札付きのワルであった赤岩を後鬼と呼び、元担任の水越を前鬼と呼んでいた。県警の少年課に所属する高尾と丸木は、晶と役小角の関係を調べ、彼が自称するように役小角の転生した姿ではないかと確信するにいたる。晶は私欲を満たすために権力を悪用する代議士に対し、その不思議な力を用いて行いを正させようとするのだが……。
結局、現代に蘇った役小角の世直しのお話、で終わってしまうのは、せっかく魅力的なキャラクターを創造しているだけにもったいないと感じた。なぜ晶に小角が取り憑いたのかなど、肝心の点が明らかになっていないので、作中で開陳される役小角伝説の真相など面白い設定もなんとなく消化不良のままストーリーの中に埋没してしまっている。この設定やアイデアならばかなり本格的な時代伝奇小説か、伝奇SFの傑作に仕立て上げることは作者の力量なら可能だと思うのだが、残念ながら単純な勧善懲悪のアクション小説にとどまっている。
ベテラン作家が軽く流しているような印象が残る。この作品を足がかりにして、作者にはぜひ役小角を主人公にした本格伝奇SFに取り組んでもらいたいものである。
(2000年9月26日読了)