大阪ものの作家といえば織田作、織田作といえば「夫婦善哉」。商家を勘当された柳吉がいかにあかんたれであろうと、しっかり者の蝶子はなんとかしたろうと必死で気張る。せっかくためた金を茶屋遊びで使われ、軌道に乗った商売がすぐにあかんようになり、怒った蝶子は柳吉に折檻と称して痛い目にあわせるのだが、だからといって見捨てるわけではない。ここに男女の縁の妙味を見る。作者は二人に同情するわけでも突き放すわけでもなく、実にさらりさらさらとこの夫婦を描いているが、それが効果的である。文章の密度の高さに驚く。短編1本で長編1冊読んだ気になる。
「アド・バルーン」の流れにまかせて生きていく男、「六白金星」の不器用ながら頑固な男、「競馬」(新潮文庫版のみ所収)のはずみでどんどん堕ちていく男、「放浪」(講談社文芸文庫版のみ所収)の与えられた見かけの幸福を自ら捨てながらそれを失った重みに愕然とする男、「勧善懲悪」(講談社文芸文庫版のみ所収)の気の弱い悪人、そして彼を操りながら自分は失敗してしまう男……。
どの作品にも何か欠落した男たちが登場し、なんとなくその一生を生きていく。そのあかんたれなところに、読み手は自分の持つ弱さを重ね合わせずにはおられない。それこそが織田作文学の魅力である。こういう小説を生涯に1編でもよいから書けたらどんなに幸せだろう。
(2000年8月21日読了)