横綱若乃花勝が自ら全てを語ったと話題になった1冊。
彼がどのような気持ちで土俵に上がっていたか、大型力士全盛時代に小兵力士が綱を張ることの意味やそれを維持する努力など、その悲愴なまでの心情が語られている。現役時代のインタビューなどではそこまでさらけ出すことはなかった。本書は、勝負師が引退したからこそ手の内を全てさらけ出せるようになった、そういう意味を持つ本であろう。
現役時代にスキャンダラスに報道された家族関係の内情については建前に近い内容が語られている。本人の口からはこれが限度ということだろう。まあ当然ではある。だからスキャンダルの真相を本音で語ったものとして期待してはいけない。
ただ、「貴乃花を洗脳した整体師」に対してははっきりとした憎悪の念を隠さない。他が建前であるだけに、この部分の感情的なところが目をひく。それがあるからこそ、本書で語られる内容に真実味があるといえるだろう。
ワイドショー的な興味を満たす本ではなく、あくまで力士として最高位に昇進した一人の男の半生記、そして相撲観を示したものといえるだろう。そこには旧来の力士にはあてはまらない考え方も含まれていて、彼が将来相撲協会の幹部になって改革してほしくなるような提案がなされている。その点では相撲ファンにとっては興味深い内容の本である。
(2000年10月8日読了)