ハードカバー発刊時(1995年)、各方面から話題になった漫画評論集の文庫化。
漫画家自身が漫画を評論する。これがどういう困難さをともなうかを考えてしまう。厳しい批評をしたら、それが本人の漫画に対してはねかえってくることにもなりかねないからだ。だから、著者は本書では自分の漫画に対するスタンスや好みをはっきりと打ち出している。漫画について知り尽くしているからこそ書ける文章もある。本書全体を通して感じられるのは、漫画という表現方法そのものへの深い愛情である。どんなに厳しいことを書いていても、基盤にそれがあるから、決して無責任な発言になっていない。描き方の微妙な気配りにも感心した。この気配りは実作者だからできるという性質のものかもしれない。批評が「芸」になっているのだ。
自分は漫画が好きだ。面白いものは面白いのだ。そういう姿勢が貫かれているからこそ、本書は優れた漫画批評になっているのである。
書評家として、私自身いろいろと蒙を啓かれるところの多い優れた評論集である。
(2000年10月11日読了)