読書感想文


修羅々
梶研吾著
講談社X文庫ホワイトハート
2000年10月5日第1刷
定価550円

 人知を超えた能力を持つものに母を殺された少女、修羅々。復讐に燃える父より殺人マシーンとしての訓練を受け、「進化した殺人者」と名乗る者たちを次々と倒していく。恋人を「進化した殺人者」によって殺された青年成嶋毅もまた、復讐の鬼となり、修羅々と行動をともにする。次々と現れる「進化した殺人者」たち。身も心もずたずたになりながら、二人は戦い続ける。「進化した殺人者」たちが奉ずる「正義」とは。そして、彼ら殺人者を支配する「マザー」とは……。
 漫画原作などで知られる作者の小説デビュー作。「劇画村塾」で鍛えられたキャラクター構築力やアクションシーンの迫力などはさすがである。特に修羅々の前に現れる「殺人者」たちの存在感には圧倒されてしまう。
 しかし、彼らを操る「マザー」の描写になると、なぜかその存在の大きさが感じられなくなる。ひとつには「マザー」が神のような存在として描かれているにも関わらず、「殺人者」の行動の規範がごく平凡な倫理観に捕らわれているからである。複数の男性と肉体関係をもつ女性などが「殺人者」の標的となるのだが、なぜ「マザー」のような大きな存在がそのようなことにこだわるのか。また、「マザー」の真の力をここでは描いていないからであるともいえる。これはもしシリーズ化された場合、明らかになるのかもしれないが。
 アクションの面白さと復讐マシーンとして育てられた少女のハードボイルド的な生き方のみを楽しむにはよいけれども、それ以上のSF性の強い大きな物語を望んではいけない。作者の視線は、人類や世界へとは向けられていないのだ。あくまで、個人レベルでの「正義」について激しいアクションで解答を探しているのである。
 ところで、本書の内容はどちらかというと新書ノベルズむきで、ボーイズ・ラヴが中心のラインナップである「ホワイトハート」の読者に受け入れられるかどうか。イラストの高橋ツトムは女性ファンも多いということらしいので、そちらの層を狙っているのだろうか。出版の形態にちょっと疑問を感じた。

(2000年10月21日読了)


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