タイトルの通り、昔気質の著者が、どんどん新しいものからずれていって、「自分がヘン」になってしまっている状況に対し、「世間がヘン」と小言を書き綴ったもの。内容的には「昔はよかった」式の書き方で特に凄いことを書いているわけではないが、そのちょっと斜に構えた視線が、自然体で書かれていて嫌味がない。説教をするならかくあるべしという感じである。
本書が凄いのは、ブックデザインもまた「世間」のデジタル化に反対するかのように徹底的にアナログで表現されていること。つまり、全て原稿用紙に手書きというスタイルなのである。従って、造本も横長になっている。この書き文字がとても読みやすい。最近のコンピュータ写植には、時間や行間が非常に読みにくく設定されていて、デザインセンスのかけらもないものが見受けられるが、本書は書き文字という極めてアナログ的なものの美しさを改めて教えてくれる。トータルなブックデザインとは、その本の内容も表現するものだという主張がある。優れたブックデザインとはどういうものかを教えてくれる。
本書はもともとラジオ番組の一コーナーのために書かれたもので、初出はアナウンサーの朗読というこれまた面白い経緯をもつものである。そして、本書にはCDが付録として封入されていて、アナウンサーの美しい朗読を聞くこともできる。文章で読むとそれほど印象に残らなかった部分も、朗読を聞くと不思議に心にしみていく。著者はラジオで聞かれることを目的としてエッセイを書いた。だから、本書は朗読されたときに最もその面白さを効果的に伝えることができるのである。そのために、著者はわざわざCDをつけたのだろう。
そういう意味では本書はハードカバーCD付きという形態でなければそのよさが伝わってこない性質の本である。文庫や電子テキストでは伝わらない、「書籍」のよさを訴えたかったということなのかもしれない。
やはり達人山藤章二。やることが違う。
(2000年10月24日読了)