作者の初の短編集。
「異形コレクション」に収録されたものを中心に、ブリッジとなる書き下ろしの短編を3編はさみ、11編が収録されている。
初出時に読んだときには、とにかく「食」ということになぜここまでこだわるのだろうかと思いながら読んだものだが、こうやって一冊にまとまって納得した。「食べる」ということは人間の本能の中でも特に重要なものである。必要不可欠なのである。その「食」に非日常的な要素を付け加えるだけで、たちどころに恐怖感、嫌悪感がわきおこってくる。いわば、「食」に対する不安は人間にとって根源的なものといってよい。作者は、人間の、いや、動物の根源的な不安を追求していくことによって、我々の日常生活のもろさというべきものを明らかにしていこうとしているのではないか。そんな気がする。
したがって、ここで表現される「食」は醜悪であり、狂的ですらある。作者は執拗にその醜悪さを細部までみっちりと書き込む。我々の本能をおびやかすように。本短編集全体に、その姿勢は貫かれている。
集中では、最も醜悪な食材から天国のような美味が生まれ悪夢のような結果にいたる「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」、毒性のあるものしか食べられない島に漂着した若者が極限の飢餓状態で選択した食物の恐怖を描く「オヤジノウミ」、異星の怪獣に脳を移植された男が、怪獣の食べるものを口にすることで心まで怪獣と化していく「怪獣ジウス」を私のベストスリーに推したい。
いずれも嫌悪感をわき起こさずにはおられない傑作揃いである。読みたまえ、そして吐きたまえ。いつしかその嘔吐は快感へと変わるだろう。
(2000年10月28日読了)