第4回角川学園小説大賞優秀賞受賞作。
高校生の女の子、藤谷瑞海がある日目覚めたら、そこは竜が当然のように街を飛び回り、竜の生け贄に選ばれることを最大の名誉と考える異常な世界へと変貌していた。それ以外は何も変わっていないというのに……。同級生の羽井貴士もまた、その世界を異常と考える一人だった。彼は親友が自殺をした原因を探るうちに、それが竜によって粛正されたものであることを知る。瑞海と貴士は、この世界をもとの世界に戻そうと考え、竜に対して反抗していく。そのために友人たちから迫害されても……。果たして二人の試みは成功するのか。そして、竜のいる世界の秘密とは何か。
異常な状況をそれが当然のように受け止める者と、それに疑問を抱き自立しようとする者。これは、現代の閉息した状況に置かれた若者たちの心の叫びをみごとにファンタジーとして昇華させたものではないだろうか。王様は裸だと叫んだがために孤立し、それでも状況を打破しようとする若さゆえの情熱。それがうまく描けている。設定や謎をストーリーの進行とともに解きあかしていく構成力など、力量を感じさせる。竜に対するペダンティックな描写など、資料を十分に生かしているのも好感のもてるところ。新人のデビュー作であるから、まだまだぎこちないところや舌足らずなところはあるが、それは今後作者が経験を積むことによって解決していくことだろう。
これからどのような作家に成長していくのかが楽しみな新人の登場である。
(2000年10月29日読了)