著者が幼い頃から惹かれている「白蛇伝」の伝説と、キースの詩に出てくる「レイミア」には、蛇が変身した女性と若い男性が恋愛をし、聖人によって蛇女の正体が明かされるという共通点があった。著者は、この二つの物語の最も古いと思われる原典を探り当て、この物語に共通のルーツがあるのか、あるとしたら、それはどこのどんな伝説なのかを探究していく。
結局そのルーツは完全に解き明かされたわけではない。だいたいのところにはいきあたったけれど、推論として結論づけられている。しかし、だからといって本書の価値が下がるわけではないだろう。本書の面白さは、ルーツを探り当てる過程で様々な伝説や古い記録を掘り起こし、類似した物語を紹介したり、その周辺の歴史や人物について記し、ああでもないこうでもないと寄り道をしている、そこにある。その探り出すまでの時間を著者と共有している気分になってくる。
蛇と人間の悲恋物語をモチーフに、物語というもののもつ魔力の深奥に踏みこんでいく、その楽しみを味わうのが正しい読み方だろう。「知」や「教養」というのはその楽しみの積み重ねの結果なのだと教えてくれる。得難い好著である。
(2000年11月1日読了)