数百年の間、鬼を封じてきた真城家には、「巫力」という超能力を持った者が生まれることがあった。「巫力」をもった千冬や恵葉といういとこたちを羨んだ美弦は封じられていた鬼の誘惑の声に負け、封印を解いてしまう。それから数年後、解放された鬼は元の力を持って蘇ろうとしている。千冬と彼を慕う少女咲也は、恵葉とともに鬼を再び封じようとするが、彼らの中に鬼と通じている者がいて……。
「鬼」についてはいろいろな識者が研究をしているが、作者はそういった資料とは全く関わりなく自分なりに考えた「鬼」のありようを描いている。しかし、残念なことに本書は新しい「鬼」の姿を描き出すことができないまま、結局過去の人物の怨念が人を鬼に変えたという形の解答を用意するにとどまっている。別に「鬼」でなくてもよいのである。ここはやはり先人の考察をよく消化した上で「鬼」でなければならない存在に仕立て上げてほしかった。
鬼のとらえ方だけではなく、鬼を封じる一族になぜ超能力が備わっているのか、「転生」を安易に使ってはいないか、邪霊を祓うのに「赦罪」という独特の言い回しを使っている根拠がわからない、など、物語を構築していく上での穴が目立つ。
伝奇小説としても、伝説などの裏付けはない。それならば作者自身が創造した「伝説」ががっちりと構築されていればよいのだが、前述の通りの課題を抱えているため、なにか中途半端な印象か残った。
本書の版元は自費出版を主体とするところで、本書の場合は自費出版ではないようだが、残念ながらまだアマチュアの域を脱していないように感じられた。こういった形のデビューは、作家志望者にはあまりよいものとは思えないのだが。
(2000年11月2日読了)