デビュー作がヒットして専業となった作家は、物語の意味を問うように自分の少年時代をモデルにした小説を書き始める。主人公の亨は学校の帰りに横道に入り込んで見つけた博物館で、美宇という少女を案内役とし、驚くべき体験をする。その博物館は、本物そっくりのレプリカを作ることによりその実物と同調してその作品が作られた時代に行くことができるのだ。パリ万博を訪れた亨は、そこで考古学者のマリエットと出会う。マリエットはなぜか亨と美宇を知っていた。やがて二人は古代エジプトの神を復活させてしまうが、その神は現実世界に侵食してくる。現実世界が崩壊してしまう危機に陥った時、亨と美宇は神を元の世界に戻そうとするが……。
作者の分身と推測される作家の物語、作家の手によって生み出された少年たちの物語、少年たちと出会う現実にいた考古学者の生涯、この3つの要素が時には分離し、時には錯綜し、そして時には混在する。
作者が「物語の面白さとは何か。フィクションが与える感動とは何か」を模索している、その過程を読者に叩き付ける、そんな作品である。その苦しさが生々しいだけに、読み手もまた苦しくなってくる。デビュー作と、第2作が高い評価を受けただけに、作者は真摯に「より面白い小説」を書かなくてはならないと考え、そこで生じた壁を撃ち破ろうともがいているのだ。
「同調」理論によるタイムトラベルなど、かなりユニークなアイデアで、作者の想像力の豊かさを感じることができる。ただ、作家の苦しみ、登場人物の冒険、考古学者の情熱の3点を並行して描いているため、かえってテーマを絞りきれていないように感じる。どうしても作者自身がその3つのテーマのどこに絞り込んでいくべきか迷っている、それがにじみでてしまうのだ。
そういう意味では本書は作者の実験であり、そして解の見つからない問いでもある。本書を書き上げたことにより、作者が何をつかんだのか。それは次作以降に少しずつ現れてくるもなのだと思う。もしかしたら、作者のターニング・ポイントとなる作品なのかもしれない。
(2000年10月9日読了)