斬神斬妖の一族の中でも下級の「月観」族に生まれた少年、捨那は「緋観」族の真凪とともに鬼姫と呼ばれる伝承の鬼のもとにおもむく。彼はそこで鬼姫と交わり、やがて鬼の力を得るようになるが、彼らを襲った謎の集団の手により、一度は死んでしまう。しかし、彼を愛おしく思う鬼姫は、彼と同化し、5年の歳月を経て再生する。目覚めた捨那と少女の姿となった鬼姫は、彼を真凪の仇と狙う「緋観」族の少女、麗火や一見斜に構えた少女諒子らと出会い、やがて「蒼観」族の陰謀と戦うことになる。その陰謀とは、人間を原料にして怪物を生み出す機械「召還機」を用いて怪物兵器を世界各国に輸出しているという残虐きわまりないものであった。捨那と鬼姫は「召還機」を破壊するために工場に向かう。しかし、そこで待ち受けていた敵とは……。
痛快なアクションと生き生きとしたキャラクター造形で読ませる。しかし、残念ながら本書では「鬼」や「召還機」などの魅力的な道具立てを生かし切れているとは言い難い。「鬼」とは何か、そして「召還機」の原理やそれが生み出すものの正体は何か、といった部分がすっぽりと抜け落ちているのだ。だから、本書では「鬼」が「鬼」である必然性が感じられなかったり、「召還機」そのものにリアリティを認めにくいのである。
本書はシリーズ化を前提として書かれているようであるが、続刊で謎の解明の端緒を提示し得るのかどうかが今後の評価の分かれ目になると思う。作者はもっともっと迫力のある作品が書けるはずだ。次巻こそその力をもっと発揮していってほしい。
(2000年11月19日読了)