「古事記」の天孫降臨部分あたりまでを本来の内容にのっとりながらところどころ新しい解釈を入れて再構成する試み。
ここでは、「古事記」に書かれていることを象徴的に読み解くのではなく、書かれているままに受け止めながら、原典ではこのように書かれているけれども、真相はこうなのだ、という書き方をしている。つまり「古事記」を古代史として現実的に解釈するのではなく、ビッグバンの結果神が生じてこの世が形成されたというように、あくまで「古事記」の叙述をファンタスティックな実話として描いている。いわば、「古事記」の孕む矛盾点を解決するために「真相」を作り出し書き換えたもの、と考えていい。そこらあたりの手際はミステリ作家ならではのもの。
SF作家ならもっと破天荒に展開するであろう。清水義範のようにシニカルに描いているというわけでもない。実に手堅い印象を受けるのである。そこらあたりはミステリの手法を使って書かれているからだといえそうだ。もっともそれは「古事記」の原典を読んでいなければわからないところであるかもしれないが。
SF「古事記」を期待しているとちょっと肩透かしを食らったように感じるだろう。だが、そういう期待をしなければ、これはこれで実にユニークな「古事記」の再構成となっているし、一気に読ませる面白さもある。ミステリ作家がSF風に味付けをした「古事記」伝といったところか。
(2000年11月23日読了)