奥飛騨地方の小さな町で、内蔵や全身が石化してしまう奇病が発生した。原因は地元の乳業会社が開発した乳酸菌飲料にあった。その乳酸菌は遺伝子操作でカルシウムを体内に取り入れやすくしたものだったが、それが過剰になった時、人体の石化が始まるのだ。責任を追求されることを恐れた会社側の研究者によってその菌は廃棄されたが、水源に流出し新たな患者を生み出していた。一方、盛岡の私立医科大学の研究者はバクテリオ・ファージを使ってこの菌の活動をストップさせる方法を開発していた。しかし、法律の壁に阻まれてこの方法は認可されない。スタンドプレイを好む研究者は、乳業会社の社長と組み教祖と称してバクテリオ・ファージの入った水を配付するが……。
作者は内科開業医で、本書がデビュー作。その現場でつちかった知識を活用し、乳酸菌による奇病という卓抜なアイデアと、薬品の許認可などの現実的な問題をリンクさせ、リアリティのあるサスペンスに仕立て上げた。いささか饒舌な科学背景の説明が物語のスピードを鈍らせるところはあるが、スリリングな展開で一気に読ませる。
遺伝子操作の抱える問題点をSFという手法で浮き彫りにした、実に現代的な物語であり、その問題意識の高さとユニークなアイデアは、新人のデビュー作としてだけでなく評価すべきものだろう。登場人物の造形やメロドラマ的展開には古臭さを感じさせるが、そこを割り引いてみても、本書は一読をお薦めしたい一冊である。
(2000年11月23日読了)