CS放送局の上海支局に勤める六郷紀里は、大学教授をホストにした始皇帝に関する番組を作るために上海自然史博物館を訪れていた。ここで教授が開陳する「史記」を引き写した始皇帝暗殺の学説に、彼女は反発する。一方、自然史博物館長が遺物を横流しして私腹を肥やしているという噂を調査するために、中国の公安部が動き出している。同じ情報から、中国民主化革命をはかるテロリスト集団「天地之牙」は、館長を見せしめにロシアから横流しされてきた戦術核を使って博物館を破壊しようとしてる。様々な陰謀に巻き込まれた紀里は、「天地之牙」のリーダー、アレックスに拉致され幻とされてきた始皇帝陵に連れていかれる。そこで彼女が見たものは……。始皇帝の秘密が今解き明かされようとしている。
始皇帝の人物像、そして彼が求めた不老不死の謎という伝奇的な要素に加え、テロリストと国家の争いという政治小説としての側面をスリル感たっぷりに描いている。
そのアイデアはよいのだが、両者をうまくからみあわせることに成功しているかどうかというと、首をひねらざるを得ない。どちらをメインにおいているかがはっきりしていないのだ。前半は主として始皇帝の秘密、そして、後半は主としてテロリストの戦い、というように二分されてしまっている。だから、作者が読み手に発信したいのはどちらなのかがわかりにくい。ラスト付近で唐突に伝奇小説に戻る。そこらあたりのバランスの悪さを感じる。これはもともと続編があることを前提に書かれたものらしいので、次巻以降を読まないと評価しにくい面があるといえる。
一冊の本としての構成に難点はあるものの、色々な要素を詰め込んでエンターテインメントに徹しようという作者の意気込みは伝わってくる。それだけに、もっとすっきりした形でそれを提示できなったか、という点が惜しいところだ。
(2000年11月28日読了)