硬骨漢のルポライターが、「正義」を隠れ蓑に自己中心的な言説をふりまく者たちを一刀両断する。何かというと「人権」を持ち出し子どもの所業を学校教育のせいにする「人権ママ」。建前だけ「偏差値追放」と叫びながら、実質は私学教育を国家統制したがる文部省。被害者の人権を無視して加害者ばかり守ろうとする偏向した少年法。無責任な言説を垂れ流すベストセラー。
根底にあるものは、現実を見据えず自分勝手な「理想」を人に押しつける「社会常識」の矛盾である。著者は法律を精読し、裁判の現場にも立ち会い、そうした例をつぶさに見ながら、一言一句に怒りをぶつけていく。
実は、著者もまたあるべき理想を作り出し、それにあてはまらないものを攻撃しているという点ではよく似てはいる。ただ、違うのは、机上の空論にならないように地道に調査を重ねて自分の言葉に裏付けを与えているという点である。そういう意味では、首肯できる部分も多く、読んでいて痛快な気分にさえなる。それはちょっと違うのでは、と思われる部分についても、論議の叩き台として十分に内容のあるものであるし、こういった本が議論の発端となって、よりよいものを生み出していくことができるならば、それこそ著者の狙い通りだろう。
現在の社会状況を考える上で、一度は目を通しておきたい一冊である。
(2000年11月27日読了)