惑星グレイストームに住む高校生、遥は日常に疑問を抱き、学校をエスケープする毎日を送っている。街で刺繍をしたり夜は歌姫となったりして生計をたてている少女、ヴィオレッタと知り合った彼は、これまでとは違う生活に刺激を感じる。原住民族のウルボアイであるギタリスト、アーツァツァクが村に戻るというのでいっしょに村を訪れた遥とヴィオレッタは、ウルボアイの長老が村の近くにある〈大門〉のところでクランガと呼ばれる存在から人知の及ばぬ貴重な道具を入手していることを知る。そのクランガの姿は、破壊と殺戮のみを求める兇悪な宇宙生物キラーバグと瓜二つであった。遥はクランガと交信できる力が自分にあることを知り、宇宙創世のヴィジョンを理解したいと願うようになる。しかし、グレイストーム軍とキラーバグの戦争がクランガの〈大門〉にまで及ぶことがわかり、遥は〈大門〉への攻撃を阻止しようと考えるが……。
人類と異生物の交流を軸に、少年の成長を描いた物語。そこは手練れの作者だけに非常にうまくまとめている。キャラクター設計や、異生物の描写などもきめ細かに描かれていて、作品世界にリアリティを持たせることに成功している。
ただ、残念ながら、コンパクトにまとまり過ぎて読み手を圧倒するほどの強烈なイメージを最後までもたせることかできていないように感じられた。ベテランならではの安定感で一気に読ませるだけのものあるのだが、この設定ならばもっと大きく世界を広げることができただろうに。作者が本来の力量を発揮したならば、年間ベストを狙えるほどの傑作にもなっただろうに。
そういう意味では、作者はまだまだ完全復活したわけではないと考えざるを得ない。再起に向けてのステップの一つとしてとらえるべきだろう。もっとも、そういう先入観抜きで読んだ場合、本書はささくれだった心を癒すいい話である。少年小説の理想的なスタイルの一つがここでは展開されているのである。
(2000年12月2日読了)