舞台は、明治維新直後の奈良の一寒村。寺を廃して神社に建て直すというのでその監査役として赴任してきた内務省の若き役人立花は、そこで鬼が女児をさらうという噂を聞く。現地で民俗学のフィールドワークをしていた朱雀男爵とともに、伝説の〈鬼明神〉について調べることになる。村長からこれ以上ないもてなしを受ける立花であったが、彼もまた人には言えない秘密を持っていた。立花が見つけた〈鬼〉の正体とは。そして彼を待ち受ける運命は……。
明治維新直後という時代背景を生かし、伝説と現実が微妙にリンクするタイミングを絶妙にとらえている。基本線ではミステリの枠組みを踏み外してはいないのだが、謎の解決にまで持っていく雰囲気の作り方がうまく、読み手を引き込む。ここでの〈鬼〉は、その形態ではなく、行為と心情で表現されるものである。そこらあたりをちらつかせながら、クライマックスで明かされる〈鬼〉の正体の描き方に才気を感じた。少しコンパクトにまとまり過ぎているようにも思うが、物語の長さからいくと適当であるかもしれない。
〈鬼〉をキーワードに人の心に潜む暗部を描いた佳作である。
(2000年12月4日読了)