「うるさい日本の私」で話題をまいた「戦う哲学者」が、「善良」な人たちが発する決まり文句を俎上に乗せて、日本ムラ文化を一刀両断する。
「相手の気持ちを考えろよ!」「ひとりで生きてるんじゃないからな!」「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」「もっと素直になれよ!」「一度頭を下げれば済むことじゃないか!」「謝れよ!」「弁解するな!」「胸に手をあててよく考えてみろ!」「みんなが厭な気分になるじゃないか!」「自分の好きなことがかならず何かあるはずだ!」。
著者は、これらの言葉が発せられる土台となる「常識」をまず疑う。そこには、「個」を押し殺して一つの価値観を押しつける嫌らしさがあるというのだ。相手のためを思って言っているようだが、実は自分を守るために発せられる偽善的な言葉であると断定する。
著者は徹底して「個人主義」を貫こうとする。自分というものを大事にするためには、こういう言葉と戦わなければならないと主張する。あえて極論に走っていると見える節もある。
なかなか著者のようにはいかないものではあるが、それでもこういった言葉の押しつけがましさに辟易した経験はある。特に、「謝れよ!」「弁解するな!」という言葉のもつ嫌らしさには「謝ればいいのか」「自分の考えを主張して何がいけないのだ」と思ったことが再三ある。だから、本書を読むと溜飲が下がる。
本当は私も著者のように戦いたい。が、悲しいかなそれほど「自分」に自信が持てない以上、本書を読んで「そうだそうだ」と共感するにとどまってしまう。そんな自分が少し後ろめたくなってしまうような、過激な一冊。
「個」とは何か、「公」とは何か。「公」のために「個」を封殺してしまっていいのかということを考える時に、本書は大きな力になるはずだ。
(2000年11月27日読了)