人間の遺伝子に欠けているもの それは抑制遺伝子。そのために人間はいつでも発情し、人間同士の殺意を抑え切れないでいる。子どもたちは生まれてすぐに成人してから抑制遺伝子を移植できるように措置されていて、体が発光したら抑制遺伝子を移植する〈儀式〉を行う。しか、子どもたちの中にはそれを拒む者もおり、彼らは家庭や施設から脱走し、地下の廃虚に住んでいた。〈土竜〉と呼ばれる少年たちの一人、カオルは、彼らを捕まえ焼き殺す〈炎人〉の施設にある食料を強奪しに行った時、〈炎人〉から逃げる途中で閉鎖された研究室に入り込む。そこに封印されていた巨人「ミトラ」と出会い、彼を自分の地下の住居に連れて帰る。〈炎人〉との戦いの中で、カオルは「ミトラ」を作り出した遺伝子研究者について調べ、「ミトラ」の正体を探ることにする。孤島で知った「ミトラ」の秘密とは。カオルとともに島に行きついには〈炎人〉に連れ去られた少女、マリアを救い出すことはできるのか……。
抑制遺伝子というアイデアをふくらませ、管理社会の矛盾や人類と科学技術の発達との問題点などを設定の中に折り込み、少年と少女の成長物語を綴りあげている。
作者のこれまでの作品と同様、本書でも主人公たちは何かを探し求める存在である。アイデンティティの確立という問題を、うまくSFという方法で表現していると思う。発光の仕組みや管理社会の体制の描写の荒さなど、気になる点もあるけれど、地下の少年と〈炎人〉の対立が物語の中心となっているので、そういった点はうまくカバーされているのではないだろうか。
また本書は作者の著書としてははじめて真っ向からSFに取り組んだものとして、SF作家としての今後に期待でき得るものになっている。その点でもぜひご一読を薦めたい一冊である。
(2000年12月17日読了)