奇才グレッグ・イーガンの短編のうち、代表的なものを訳者自身が編集したベスト・アルバム的短編集。
イーガン作品のテーマである「認知」がどの作品にも色濃く出ている。短編なればこそ、そのテーマがむき出しになるといってもいいだろう。そういう意味では、イーガンの突拍子もないヒネクレ理論が気がついたらテーマに集約されている長篇の方が面白いかもしれないという印象を受けた。
とはいえ、そのテーマを表現するために作者が出してくるアイデアの面白さは、短編でも十分に楽しめるし、かえってストレートにテーマがわかる方が読みやすいのかもしれない。そこらあたりは好き嫌いもあるだろう。
私の本書でのベストは、人間のデータを複製した場合に「本人」とは何を指すのかと問いかける「誘拐」と「ぼくになることを」、宗教と個人そして社会の関係をSF的にとらえ直そうとする「祈りの海」、次々といろいろな人物に転移して生きる男のアイテンティティを描く「貸金庫」、人間の祖先をDNA解析をしてたどっていくうちに狂躁状態に陥るドタバタが楽しい「ミトコンドリア・イヴ」あたりか。
いずれもSFならではの奇想に満ちあふれた短編ばかり。小説としてのできを考えると、先読みできてしまうストーリー構成など不満はあるけれど、それもイーガンの特徴と考えるべきかもしれない。
やはりイーガンからは目が離せないと実感させられる1冊。
(2000年12月24日読了)